片手で鉄板を持ち上げた国産ロボット
9月16日、東京で開催された「フィジカルAI Summit」の会場で、一台のロボットが片手で鉄板を軽々と持ち上げるデモを見せた。見た目はそれほど大柄ではないのに、その力強さが際立っていた、と会場に居合わせたエンジニアたちがこぞってSNSに投稿していた映像だ。発表したのは東京のロボットスタートアップ、ugo(ユーゴー)。新型の国産セミヒューマノイド「ugo Nova」である。派手な「ヒューマノイド」という言葉が飛び交う昨今の業界にあって、これは正直かなり好感の持てる発表だった。設計から製造まですべて国内で行う、という点も含めて、ロボット屋として腰を据えて見ておきたい機体だ。
「セミヒューマノイド」という設計思想
ugo Novaは、上半身は人間に近い構造を持ちながら、下半身は脚ではなく車輪で移動する「セミヒューマノイド」に分類される。7軸の双腕と2軸の頭部、腰関節を備えた車輪移動型で、最大10kgの荷物を双腕で持ち上げられるという。二足歩行の完全なヒューマノイドと比べると見た目の派手さでは劣るかもしれないが、工場や倉庫といった現場での実用性を考えれば、転倒リスクのない車輪移動の方が理にかなっている場面は多い。この設計判断自体が、「ヒューマノイドらしさ」よりも「現場でどれだけ働けるか」を優先した結果だと読める。
検証可能な技術的中身
今回の発表で評価したいのは、スペックの開示がかなり具体的な点だ。頭部とハンド部にカメラを標準搭載し、フィジカルAIの学習に必要な視覚データを取得する設計になっている。アーム制御は100Hzの制御周期に対応し、コンピュートにはNVIDIAのJetson Thorを搭載しているという。遠隔操作の手段として、バイラテラルコントローラとVRコントローラの両方に対応しており、このバイラテラルコントローラの開発には、ロボット制御で実績のあるアスラテック社が技術協力している。人が遠隔操作した動作の反力までフィードバックできるバイラテラル方式は、単なる一方向の操作指示よりも、質の高い学習データを集める上で有効な手法だ。
国が旗を振る「国産汎用ロボット開発コンペティション」の一角
ugo Novaは単独の製品発表ではなく、一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業として実施する「国産汎用ロボット開発コンペティション」に提案された機体だ。同じイベントには、THK、不二越、Keigan、HatsuMuv、Enactic、EmplifAIという7社の双腕モバイルマニピュレータの試作機が並んだという。約6カ月という短期間での新規開発だったという点も踏まえると、この国産ロボット開発の流れは、単発のPR施策ではなく、国が後押しする継続的な技術開発競争の一部として位置づけるのが正確だろう。ugoは同月9日にも、双腕セミヒューマノイド向けのVTLAモデル開発が経済産業省とNEDOのGENIACに採択されたことを公表しており、この一連の流れの中での発表であることが分かる。
「ロボット」ではなく「フィジカルAIプラットフォーム」として売る戦略
もう一つ注目したいのが、ugo Novaが単体のハードウェアとしてではなく、「ugo Physical AI Fabric」という一連のサービス群の一部として発表された点だ。データ収集キット、収集したデータを蓄積する「ugo Data Factory」、そこからロボット基盤モデルを開発する「ugo Model Lab」までを一括提供するという構成になっている。ロボット単体を売るのではなく、現場でのデータ収集からAIモデルの構築、実機での検証、現場導入までを一気通貫で支援するプラットフォームとして展開する戦略は、フィジカルAI業界で最近よく見られるアプローチだ。ugoはすでに警備ロボット「ugo Pro」を福岡空港やビックカメラ池袋西口店で実証実験しており、この実運用の知見が今回のフィジカルAI基盤の設計にも活きていると見ていいだろう。
エンジニアとして見ておきたいこと
量産開始は2027年予定とまだ先の話であり、現時点ではあくまで試作機という段階だ。とはいえ、NVIDIA Jetson Thorという具体的なコンピュートの選定、100Hzという制御周期の数値、そしてバイラテラル制御という技術的に裏付けのある遠隔操作手法まで、スペックの開示水準が高いのは素直に評価したい。国内での実用化を急ぐあまり中身が伴わない発表をしがちなこの業界にあって、AIRoAという第三者機関が関わるコンペティションの枠組みの中で複数社が競い合う構図は、技術の検証可能性という意味でも健全だ。今後、実際のデータ収集がどれだけの量と質で進み、そのデータから学習したロボット基盤モデルがどこまで自律化を実現できるかが、この取り組みの真価を測る次のチェックポイントになる。