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The Trend Tribune

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2026年9月15日火曜日 夕刊 定価 無料
◆ 本日の主要記事

GoogleがApple製品の頭脳になった日——Siri AIの裏側を支える1.2兆パラメータの中身

▶ 9月14日にベータ公開されたSiri AIは、Appleが自社開発したモデルではなく、GoogleがApple向けにカスタムした1.2兆パラメータのGeminiモデルを中核に据えている。Private Cloud Compute経由での責任分界、年間1000億円規模とされる契約、独禁法リスクまで、他社フロンティアモデルを組み込む設計の実例として読み解く。

GoogleがApple製品の頭脳になった日——Siri AIの裏側を支える1.2兆パラメータの中身
(写真はイメージ)

9月14日、静かに始まったもう一つの提携

iOS 27がリリースされた9月14日、Appleは「Siri AI」という刷新版アシスタントをベータ公開した。派手なキーノートの裏で、実はもっと大きな話が進んでいる。Siri AIの頭脳を担っているのは、Appleが自社開発したモデルではなく、Googleの「Gemini」だという事実だ。両社は1月に複数年契約を発表していたが、実際にユーザーの手元に機能として届き始めたのが今回のタイミングになる。エンジニアとしてこの提携の中身を追いかけると、単なる「他社モデルの採用」以上の設計思想が見えてくる。

Siri AIとは何なのか

Siri AIは、メッセージやメール、写真といった個人的な文脈を理解し、画面に表示されている内容についての質問にも答えられる、会話型のアシスタントだ。単体のアプリとしても提供され、アプリをまたいだ操作(メールの下書き作成や、複数の写真の編集・共有など)もこなす。英語版のベータがまず配信され、フランス語・日本語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語は10月以降に追加される予定だ。対応デバイスはiPhone 15 Pro以降と幅広く、iPad・Mac・Apple Watch・Vision Proにも展開される。

裏側で動いているのはGoogleのGemini

ここが今回一番書いておきたいところだ。複数の報道によれば、Siri AIの中核を担うのはGoogleがApple向けにカスタムした1.2兆パラメータのGeminiモデルで、Appleの「Private Cloud Compute」というプライバシー保護インフラを経由してGoogle Cloud上で稼働する。Google Cloudの責任者トーマス・クリアンは、Google Cloud Next 2026のカンファレンスで自社を「Appleの次世代AIモデルにとっての優先クラウドプロバイダー」と表現したと報じられている。ユーザーからはGoogleのブランドは一切見えないが、実際に難しいクエリを処理しているのはNVIDIAのBlackwell B200チップ上で動くGeminiだという分析もある。

なぜAppleは自前モデルを諦めたのか

Appleは長年、自社クラウドモデルの開発を続けてきたが、報道によればその規模は1500億パラメータ程度にとどまり、Googleがカスタムした1.2兆パラメータのモデルとは8倍近い開きがある。自社のPrivate Cloud Compute上でフロンティア級のモデルを動かそうとすると、Siriが求める応答速度を満たせなかった、という分析も出ている。「自前で作るには2年遅れている」という状況を認め、フロンティアモデルを借りながら自社開発を続けるという判断は、エンジニアリング組織としては合理的な選択だろう。実際、契約は非独占的な構造になっており、将来的にApp Store経由で他のAIモデルをSiriに組み込める「Any Model」的な拡張性も持たせているという。

アーキテクチャの中身——どこからどこまでが「Apple」なのか

技術的に興味深いのは、責任分界点の引き方だ。Siriのビジュアルデザイン、音声、ユーザー体験は完全にAppleがコントロールし、Geminiは推論エンジンとしてのみ機能する。Appleは軽量なタスクを自社の端末上・Private Cloud Compute上で処理し、より重い推論が必要なクエリだけをGoogle側にルーティングする設計だと見られている。GeminiのMixture-of-Experts(専門家混合)アーキテクチャは、クエリごとにモデル全体のごく一部だけを起動する仕組みで、これがフロンティア級モデルを現実的なコストでレンタルできる理由の一つだ。

年間1000億円という金額をどう見るか

Bloombergの報道によれば、この契約の対価はおよそ年間10億ドル(約1500億円)、アナリストのGene Munster氏は複数年契約全体で最大50億ドル規模になり得ると試算している。参考までに、AppleがSafariのデフォルト検索エンジンとしてGoogleに支払っている金額は年間200億ドルとされ、今回のGemini契約はその20分の1程度の規模だ。もっとも、これは「開始価格」であり、検索契約がそうであったように、統合が深まるにつれて金額が膨らんでいく可能性は十分にある。

独禁法という影

見過ごせないのが規制上のリスクだ。すでに200億ドル規模の検索デフォルト契約を抱えるGoogleとAppleが、AIの領域でもさらに深く結びつくことに対して、米司法省の対Google独禁法訴訟の是正措置協議でこの提携が言及される可能性を指摘する分析もある。2社の商業的な結びつきがこれ以上大きくなることを、規制当局がどこまで見過ごすかは今後の焦点になりそうだ。

エンジニアとして見ておきたいこと

自社のプロダクトに他社のフロンティアモデルを組み込む際の設計として、Siri AIのアーキテクチャは一つの参考例になる。ユーザー体験の層とモデルの層を明確に分離し、プライバシー保護のためのインフラ(Private Cloud Compute)を自社で維持しながら、推論そのものは外部にアウトソースする。この「借りながら自走する」設計思想は、自前でフロンティアモデルを持たない多くの企業にとって示唆的だ。今後、10月以降の多言語展開や、Any Model構想がどこまで具体化するかを注視しておきたい。

AppleGoogleGeminiSiriAIエージェント

「粗利80%」の但し書きを会計士が読む——Anthropicが投資家に語った黒字の中身

▶ Nasdaq上場を控えるAnthropicが、一部株主に第2四半期も調整後営業利益が黒字になる見通しを伝えたとFTが報じた。売上115億ドル・粗利益率80%超という数字は、株式報酬や販売パートナーへの収益分配、モデル学習コストを除いた「調整後」の指標であり、その定義を会計士視点で分解する。

IPO目前の異例の開示

AnthropicがNasdaq上場を控える中、限られた既存株主に対して「第2四半期も2期連続で調整後営業利益が黒字になる見通しだ」と伝えていたことをFinancial Timesが報じた。フロンティアAI企業の巨額の資金燃焼に対する投資家の懸念を和らげる狙いがあるとみられる。会計士としてこの手の「投資家向け事前開示」を見るときは、まず数字そのものより「何が、どういう定義で語られているか」を確認する癖がついている。今回も、その視点で数字を分解してみたい。

数字を並べる

報じられている数字を整理すると、第2四半期の売上高は115億ドル(約1兆7000億円)で、前年同期比14倍。年換算収益(ARR)は7月末時点で650億ドルに達し、2025年末の90億ドルから大きく積み上がった。SemiAnalysisのアナリスト、ジョーイ・ブルックハート氏の分析によれば、投資家は年末までに年換算収益が1200億ドルに達し、2027年末までにはその3倍近くになると見込んでいるという。四半期ベースで見ると、第1四半期の47億3000万ドルから第2四半期の115億ドルへ、単純計算でおよそ143%の増収になる。急成長そのものは疑いようがない。

「調整後営業利益」というマジックワード

ここからが会計士として一番書きたい部分だ。今回「黒字」とされているのは、あくまで「調整後営業利益(adjusted operating income)」という指標であり、株式報酬費用などのコストを除外した数字だという。一般に公正妥当と認められた会計基準(GAAP)上の純利益とは別物であり、この指標だけを見て「Anthropicは儲かっている会社になった」と結論づけるのは早計だ。調整後営業利益がプラスであることと、キャッシュフローが実際にプラスであることは、似て非なる話である。

「粗利80%」、その前に何が引かれていないか

もう一つの目玉数字が「粗利益率80%超」という発表だ。これも文字通り受け取る前に、その定義を確認する必要がある。報道によれば、この80%という数字は、Amazonをはじめとする販売パートナーへの収益分配、そしてモデルの学習コストを差し引く前の数字だという。フロンティアAI企業にとって学習コストは事業の根幹をなす支出であり、これを除外した粗利益率は、成熟したソフトウェア企業の粗利益率と並べて比較できる性質のものではない。ある報道は「学習コストを除いた粗利益率は、既存モデルを顧客に提供する収益性がどれだけ高いかを測る指標にすぎない」と、この数字の射程を正確に言い当てている。

四半期の伸び率をどう見るか

Anthropicが投資家に示した資料は「予備的で未監査」であることも強調されている。実際に目論見書が公開されるまでに数字が修正される可能性は十分にある。それでも、前年同期比14倍という伸び率、そして年換算収益が650億ドルまで積み上がったという事実そのものは、フロンティアAI企業のビジネスモデルが「使えば使うほど赤字が膨らむ」段階から、少なくとも既存顧客への提供分については採算が取れる段階に移りつつあることを示している。CEOのダリオ・アモデイ氏が今回の開示の前日に、AI業界に対して開発ペースを落とすよう呼びかける論考を公表していたことも付記しておきたい。急成長を投資家に売り込む一方で、業界としての減速を公に訴えるという、一見矛盾した二つのメッセージが同じタイミングで発信されている点は、今後の株式市場の受け止め方を占ううえで見ておく価値がある。

Nasdaq、2兆ドルという新しい基準線

上場先はNasdaqで決まったとされ、評価額は2兆ドルを超える可能性があるとFTに近い関係者が語っているという。実現すれば、6月にNasdaqへ上場し評価額1兆7700億ドルをつけたSpaceXの記録を上回ることになる。ただし、この評価額はあくまで観測気球の段階であり、実際の目論見書公開後にどこまで維持されるかは未知数だ。目論見書は当初先週公開される予定だったが、Anthropicは一部の投資家にのみ先行して開示し、そのフィードバックを踏まえてから一般公開する方針に切り替えたという。この慎重な出し方自体が、会社側が数字の受け止められ方に強い注意を払っていることの表れだろう。

会計士として見ておきたいこと

「2期連続の黒字」「粗利益率80%超」という見出しだけを追うと、Anthropicがすでに安定した収益基盤を確立したように見える。だが会計士の視点で言えば、これらはいずれも一定の前提を除外した「調整後」の数字であり、GAAPベースの実態とは距離がある。今回の開示の意味は、「実際にすでに黒字化した」という結論ではなく、「投資家に安心材料を提示しなければならないタイミングに来た」という事実そのものにある。今後公開される正式な目論見書で、調整前の数字、学習コストの実額、そしてキャッシュフロー計算書がどう開示されるかを、引き続き注視しておきたい。

AnthropicIPOファイナンス決算Nasdaq

「人体の説明書」を、ついに人類は読めるようになった——DeepMindが公開した90億通りのDNA変異地図

▶ Google DeepMindが9月8日公開した「AlphaGenome Atlas」は、ヒトゲノムに存在しうる90億通りの一塩基変異すべてについて予測を事前計算したデータベースだ。AVIスコアという新指標、UK Biobankやブロード研究所による独立検証、そして臨床利用は想定していないという明記された限界まで、論文と公式発表を読み解く。

「本は買ったが、読み方がわからなかった」

Google DeepMindが9月8日、「AlphaGenome Atlas」という新しいプラットフォームを公開した。ヒトゲノムに存在しうる90億通りの一塩基変異、つまり「DNAの1文字を別の文字に置き換えたらどうなるか」のすべての組み合わせについて、あらかじめ計算済みの予測を提供するデータベースだ。DeepMindのAI for Science部門を率いるプシュミート・コーリ氏は記者向けブリーフィングで、2003年に完了したヒトゲノム計画の「積み残し」を引き合いに出しながら、「本は買ったが、その読み方はわかっていなかった」と語ったという。ゲノム配列そのものは20年以上前に解読済みだが、その配列の「意味」を理解する作業は、依然として途方もなく手間のかかる仕事だった。

AlphaGenome Atlasとは何なのか

土台になっているのは、DeepMindが昨年公開したAIモデル「AlphaGenome」だ。AlphaGenomeは、非コード領域(タンパク質をコードしない、遺伝子のオン・オフを調節する領域)を含むDNA配列を入力すると、その変異が遺伝子発現やスプライシング(RNAの編集)、クロマチンの構造にどう影響するかを予測できる。これまでは、研究者が知りたい変異を一つずつモデルに投げて計算するか、実験室で地道に検証するしかなかった。AlphaGenome Atlasは、ヒトゲノムに存在しうる約90億通りの一塩基置換すべてについて、この予測をあらかじめ計算し、ウェブブラウザだけでアクセスできる形にパッケージした。DeepMindの論文によれば、1つの変異あたり平均およそ2万7000件の個別予測が紐づいており、数百種類のヒト・マウスの細胞種・組織種にわたって計算されているという。

AVIスコアという発明

研究者にとって実務的に重要なのが、「AlphaGenome Variant Impact(AVI)スコア」という新しい指標だ。膨大な予測データをそのまま眺めても、どの変異が本当に重要なのかを判断するのは難しい。AVIスコアは、この予測群を単一の数値にまとめ、変異がどれだけ強い生物学的影響を持ちそうかをランキングできるようにしたものだ。タンパク質をコードする領域についてはDeepMindの既存モデル「AlphaMissense」の知見と組み合わせ、非コード領域についてはAlphaGenomeの予測を軸にしている。さらに、どの分子プロセス(RNAスプライシングか、遺伝子発現量かなど)が最も破壊されると予測されているかを示す「特徴量寄与度」も計算されており、研究者がスコアの中身を単なるブラックボックスとして受け取らずに済むよう設計されている。

どうやって検証されたのか

論文で示された検証結果によれば、AVIスコアは臨床ゲノミクスのデータベースにおいて、病原性のある変異と無害な変異を見分ける性能で、複数のベンチマークにおいて最高水準の性能を示したという。イギリス・エクセター大学のチームはUK Biobankの全ゲノムデータを使った検証で、マサチューセッツ州のブロード研究所のチームも独自にこのアトラスの予測を活用した研究を行っている。DeepMindの研究者以外による独立した検証が複数走っている点は、この種の大規模予測ツールの信頼性を評価するうえで重要な材料になる。一方で、ベルリンのマックス・デルブリュック分子医学センターのバイオインフォマティシャン、マルティン・キルヒャー氏は「これは強力なモデルへのアクセスを大きく広げる、有用で気前の良いやり方だ」と評価しつつも、「実験や、疾患診断における個人差の考慮に取って代わるものではない」と釘を刺している。

研究者はすでに使い始めている

論文公開直後から、実際の解析に使われ始めている例も報告されている。ある研究者は、予測影響度の上位1%に絞り込んだ非コード変異の中から、BMI(体格指数)に関連しそうな19のゲノム領域を特定したという。アクセス経路も複数用意されており、コーディング経験のない研究者向けのウェブポータル、プログラムから呼び出せるGitHub上のAPI、さらにDeepMindのエージェント型開発プラットフォーム「Google Antigravity」に組み込むスキルまで提供されている。非商用の学術利用は無料で、商用利用については1ペタバイト規模のデータセットをGoogle Cloud経由でライセンスする形になるという。

限界も明記されている

DeepMind自身が明記している重要な注記として、AlphaGenomeは臨床利用について検証・承認されたものではない、という点がある。あくまで仮説生成と優先順位付けのための研究ツールであり、診断そのものに使うことは想定されていない。精神科遺伝学を専門とするカリフォルニア大学サンディエゴ校のジョナサン・セバット氏も、この種の研究を加速させる可能性を評価しつつ、慎重な位置づけを支持している。派手な「90億通りの予測」という数字に目を奪われがちだが、それが意味するのは「仮説の候補を絞り込む速度が上がった」ということであり、「診断や治療の答えが出た」ということではない、という一線は明確に引かれている。

研究者として見ておきたいこと

このアトラスの本質的な価値は、個々の予測精度そのものよりも、「変異ごとに一からモデルを走らせる」という研究のボトルネックを、事前計算とインデックス化によって解消した点にある。ゲノミクス分野でよく引き合いに出される「乾燥室での実験」対「計算機上でのスクリーニング」という対比が、この規模で初めて実用的になったと言える。今後注視すべきは、UK BiobankやBroad研究所以外の独立グループが、この規模のデータをどう検証し、どのような疾患研究に応用していくかだ。ヒトゲノム計画が配列を「読めた」段階だとすれば、AlphaGenome Atlasはその「意味を索引化」する試みの第一歩であり、まだ始まったばかりの評価が続く。

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