AIチップの「詰まり」の場所が変わった——TSMCの記録的売上が教えてくれること
7月13日、TSMC(台湾積体電路製造)が6月の月次売上を発表した。前年同月比67.9%増、金額にして約442.68億台湾ドル(約132億ドル)。これは単月として過去最高で、四半期売上も自社ガイダンスの上限を上回った。数字自体もインパクトがあるが、今回本当に注目したいのは、この決算が示しているボトルネックの場所の変化だ。
「6月は普通、落ち込む月」という季節性が崩れた
まず地味だが重要なポイントから。TSMCの月次売上は、これまで4年連続で6月に前月比マイナスになるという季節的なパターンを繰り返してきた。ところが今年は5月比で6.2%増という、この季節性を打ち破る結果になった。
アナリストがこの逆転を「特筆すべき」と評価しているのは、単に数字が良かったからではない。TSMCのようなファウンドリ(半導体の受託製造企業)の月次売上は、実は12〜18ヶ月前に確定していた製造予約(ウェハの生産枠)を反映したものだ。つまり今回の記録的な数字は、「今月たまたま注文が増えた」という話ではなく、1年以上前から積み上がってきた需要が、ようやく数字として表面化してきた結果だと理解するのが正確だ。
ボトルネックが「作る」から「詰める」に移った
技術的に一番面白いのがここだ。これまでAIチップの供給不足というと、真っ先に語られてきたのは「先端プロセス(N3など)の製造能力」の話だった。ところが今回の一連の報道を追うと、状況が一段階進んでいることが分かる。
SemiAnalysisのアナリスト、Sravan Kundojjala氏は「AI領域の需給逼迫は依然として深刻で、今年の主要なAI向けGPU・CPUがこぞって使うN3プロセスは、TSMCにとって事実上の完売状態」とコメントしている。ただし、より深刻な制約は、ウェハそのものの製造能力ではなく、CoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)と呼ばれる先端パッケージング技術の方に移っているという指摘が出てきている。
CoWoSというのは、演算チップと高帯域幅メモリ(HBM)を一つの基板上に積層して接続する技術で、NVIDIAのデータセンター向けGPUには欠かせない工程だ。報道によれば、NVIDIAだけでTSMCの2026年分の先端パッケージング能力の約60%を予約しているとされる。ウェハを作る能力は確保できても、それを最終製品として組み上げるパッケージング工程が追いつかない——これが今のAIチップ供給網の本当のボトルネックになっている、という構図だ。
増産投資も「パッケージング」に照準
TSMC自身もこの状況を踏まえた動きを見せている。台湾南部の嘉義サイエンスパークで、パッケージング施設「フェーズII」の建設が7月12日に着工した。フェーズI(2施設)はすでに6月に量産を開始しており、フェーズIIではさらに複数の施設が追加され、年間生産額にして3,000億台湾ドル規模、9,000人超の新規雇用が見込まれているという。
これは象徴的な投資判断だ。ウェハ製造の増強だけでなく、パッケージングという「後工程」への集中投資が今のAIサプライチェーンの最優先課題になっている、ということを裏付けている。
AI関連売上が「全体の4分の1」に達する見込み
もう一つ押さえておきたい数字が、TSMCの売上に占めるAI関連の比重だ。Kundojjala氏は、TSMCが2026年通年で400億ドル超のAIチップ関連売上を計上する見込みで、これは全体の売上のおよそ25%に相当すると試算している。数年前までTSMCの決算資料にほとんど登場しなかったカテゴリーが、今や会社全体の売上の4分の1を占める規模にまで成長した、ということになる。
TSMCは市場シェアの面でも圧倒的で、Counterpoint Researchのデータによれば2026年第1四半期時点でグローバルな半導体ファウンドリ市場の73%を占めているという。NVIDIA、Apple、AMDという名だたるAI・コンシューマー向けチップの主要顧客がすべてTSMCに製造を依存している以上、この会社の決算は業界全体の体温計のような役割を果たしている。
エンジニアとして見ておきたいこと
この一連の動きから見えてくるのは、AIインフラのボトルネックが、単一の工程ではなくサプライチェーン全体を順番に移動していくという現象だ。GPUの供給不足が語られていた時期から、次はウェハ製造能力、そして今はパッケージング工程へと、制約となる箇所が段階的にシフトしてきている。
これはソフトウェア開発でいう「ボトルネックの移動」とよく似た現象だ。一つのボトルネックを解消すると、それまで隠れていた次のボトルネックが表面化する。AIチップのサプライチェーンも同じ原理で動いており、今後もこの「詰まりの場所」の移動を追い続けることが、業界の実態を理解する上で欠かせない視点になりそうだ。木曜日に予定されているTSMCの正式な四半期決算発表では、この先端パッケージング能力の増強計画や、次世代の2ナノメートル技術の顧客動向についても、さらに詳しい情報が出てくることを期待したい。