「トランスフォーマーの父」がOpenAIへ――IPO前の電撃補強
AI業界に激震が走った。現代の深層学習を根底から変えた2017年の論文「Attention Is All You Need」、いわゆるトランスフォーマーアーキテクチャ(Transformer:大規模言語モデルの基盤となる設計思想)の共同発明者の一人、Noam Shazeer氏がOpenAIに加わることを自ら6月18日に公表した。
Shazeer氏はGoogleで長年研究に従事し、近年はGoogle DeepMindに所属していたことでも知られる。同氏の移籍は単なる人材獲得にとどまらない。ChatGPTや GPT-4を生んだアーキテクチャの「設計者の一人」が、そのアーキテクチャを最も商業的に活用してきた企業の内側に入るという、象徴的な出来事だ。
OpenAIはこれに加え、元トランプ政権のAI政策担当官だったDean Ball氏も同週内に迎え入れている。技術と政策の両面で大物を連続採用するこの動きは、上場(IPO)に向けた組織固めの一環とみて間違いないだろう。
「推論ゴールドラッシュ」は止まらない――Basetenが$1.5Bに迫る
OpenAIが人材を積み上げる一方、AIインフラ側でも巨額マネーが動いている。AIモデルの推論(Inference:学習済みモデルが実際に答えを生成するプロセス)に特化したクラウドインフラを提供するスタートアップ、Basetenが15億ドル(約2,100億円)規模の資金調達をほぼ確定させたと報じられた。評価額は130億ドル(約1.8兆円)に達する見込みという。
驚くべきは、前回の大型ラウンドから数か月しか経っていない点だ。AIモデルを「使う」コストが爆発的に増大するなか、高速・低コストな推論インフラへの需要は天井知らずで伸び続けている。Basetenの急成長はその縮図といえる。
SnapはAI動画チームを「切り離す」という決断
対照的な動きも起きている。Snapchatを運営するSnapは、社内で育てていたAI動画開発チームをDotmoという新会社としてスピンオフすることを発表した。理由はコスト。生成AI動画の開発・運用には莫大な計算資源が必要であり、ソーシャルメディア企業としてのSnapの収益モデルとは相性が悪かったようだ。
DotmoはSnapの現社員がそのまま移籍して立ち上げる形をとる。「社内で持つには重すぎる」技術を独立させることで、専門特化したスタートアップとして資金調達しやすい状態に置く狙いがある。AI時代の「選択と集中」の一形態として注目に値する。
YC Spring 2026 Demo Day:次の波を担うスタートアップが登場
シリコンバレーのスタートアップ登竜門、Yコンビネーター(YC)のSpring 2026 Demo Dayでは、VCたちが注目する11社がピックアップされた。なかには評価額が1億7,500万ドル(約250億円)を超える企業もあり、AIを軸にした応用領域での競争は一段と激しくなっている。
まとめ:AIの「使われ方」を巡る競争が本格化
今週のニュースを俯瞰すると、共通するキーワードが浮かぶ。「AIをいかに使うか」だ。OpenAIはIPOに向けてアーキテクチャの根幹を知る人材を囲い込み、Basetenは推論インフラという「AIを動かすエンジン」に巨額が集まる現実を体現している。SnapのDotmoスピンオフは、重いAI開発を組織のどこに置くかという構造問題への一つの答えだ。
AIモデルそのものの開発競争は続きながらも、戦場は「どこで・誰が・どうやって動かすか」という実装レイヤーへと急速に移行している。Noam Shazeer氏がOpenAIの内側から何を生み出すのか、Basetenが数千億円規模の資金で何を構築するのか——2026年後半の最重要テーマになりそうだ。